FAMシネマテーク
vol.3
10月23日(金)・24日(土)
福岡市美術館・ミュージアムホール
1作品 1,500円(当日券のみ/税込)
世の中には劇場でしか見られない映画がある。
なにをいまさら、当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、いま世界を覆っている「あらゆる事象をデジタル・データ化してオンライン上に保存したい」という欲望は日に日に勢いを増すばかりで、あらゆる映画どころか早晩われわれ人間もサイバー空間をさまよう数学的な存在となるであろう。
それでも、わたしが若かりし日に「いま見ておかないと次いつ見られるかわかんないよ!」と先輩に急き立てられ映画館とも呼べない環境で恍惚をともなう背徳感とともに鑑賞した『百年の絶唱』や『フルスタリョフ、車を!』、ペドロ・コスタやテオ・アンゲロプーロスの諸作は簡単にはスクロールできない決定的な十字架をわたしの背中のど真ん中に刻んだ。自分の営みはまだその頂の麓にすら達していないが、目指すところはもちろんそこである。
どうかこの反時代的で夢想主義的とも言える、ネットでは決して流れない<闘争劇>を暗闇の中で見届け、願わくば小さな傷跡とともに劇場をあとにしてもらいたい。
宮崎大祐
神奈川県大和市。この町は戦後米軍基地と共に発展してきた。厚木基地の住所はカリフォルニア州に属しているのだという都市伝説があるという。この町に住む十代のラッパー・長嶋サクラは日本人の母と兄、母の恋人で米兵のアビーに囲まれ、この町同様、複雑な関係性の中で育ってきた。アメリカのラッパーに憧れて、サクラは毎日ラップの練習と喧嘩に明け暮れる。ある日、アビーの娘・レイがカリフォルニアからやってくる。日米のハーフで、サンフランシスコで生まれ育ったレイ。好きな音楽の話をきっかけにして2人は距離を縮めていくのだが。
本作は米軍基地、貧困といった問題を抱える大和という場所で、ひとりの少女が“語るべき言葉”を獲得していく物語。本作は北欧最大であるタリン・ブラックナイト映画祭をはじめ、世界中の20近い著名映画祭に招待され、ニューヨーク・タイムズやハリウッド・リポーター、ヴァラエティと言った海外メディアで絶賛された。
安価な航空チケットの流通やスマートフォンの発達により近年海外旅行が一気に身近なものとなった。『TOURISM』は、今を生きる少女たちが観光客として身軽に家を飛び出し、期せずしてシンガポール本来の姿に出会うまでを描く。ニーナを演じるのは『大和(カリフォルニア)』(16)で日本とアメリカを体現する重要な役どころを務め注目が集まる遠藤新菜。スーには「装苑」専属モデルを経て昨年から女優として活躍の場を拡げるSUMIRE。国内外問わず様々な場所で映画制作を続けてきた宮崎監督が本作で選んだのは、人気の観光スポットであると同時に多民族都市国家として複雑な歴史を歩んできたシンガポール。監督自身の体験をもとに製作された本作には、この数年間で失われてしまったシンガポールの幻の風景が映っている。本作はスマートフォンやタブレットなど様々なデジタル・デバイスを駆使して撮影されており、編集後はペドロ・コスタ監督作品で常にカラリストを務めるゴンサロ・フェレイラによって彩色された。
不況や犯罪など社会に蔓延する闇に焦点をあてて描く、現代日本を舞台としたフィルム・ノワール。自分の両親を殺した男・為五郎に育てられたアキラは一流の殺し屋となるが、初めての仕事で死を看取った少女の面影をいまだ忘れられずにいた。そんなある日、その少女とそっくりな女・雪音に出会ったことから、アキラの日常はより深い闇に包まれていく。数々の国際映画祭において現地メディアや関係者から驚きをもって賞賛された長編デビュー作。
©DEEP END PICTURES INC.
2014年ブラジルで行われたサッカーW杯決勝戦当日、夕方5時から翌朝9時までの間にその国で起きた出来事を描く。南京の青年と年上の娼婦との一夜を描いた中国編、長年不倫の関係にあるシンガポール人教師と中国本土から来た愛人を描いたシンガポール編、借金の取り立て屋の顔を持つ成人映画館の映写技師が主人公の日本編、撮影中に妻と密通している俳優の殺害を企てる映画監督を描くタイ編の4編で構成。
本作はベルリン国際映画祭で若手映画制作者育成を目的とした「タレント部門」に選出された宮崎監督ほか中国・シンガポール・タイの4人の若手監督が意気投合したことから生まれたオムニバス映画。宮崎監督のパートは主演に永瀬正敏を迎え、映画愛に溢れた新しいノワール作品となった。
1 | 18:30~20:35 | 大和(カリフォルニア) |
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1 | 10:30~11:55 | 5TO9 |
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2 | 13:00~14:24 | 夜が終わる場所 |
3 | 15:30~17:34 | 大和(カリフォルニア) |
4 | 18:30~19:53 | TOURISM |
※開場は各回30分前より
「FAMシネマテーク」は福岡市美術館・ミュージアムホールを会場に、これからも貴重なプログラムを提供してまいります。