FAMシネマテーク
vol.8
5月6日(土)・7日(日)
福岡市美術館 ミュージアムホール
※期間中はリム監督来館
1作品 1,500円(当日券のみ/税込)
3年ぶりのFAMシネマテークはリム・カーワイ監督を大特集。処女長編から、大阪三部作、バルカン半島二部作、最新作『あなたの微笑み』までを一挙上映のほか、香港映画『少年たちの時代革命』を特別上映します。
期間中は監督が来館し、作家の東山彰良氏をはじめとする多彩なゲストとトークを開催。ご注目ください。
黒沢清監督をして「エドワード・ヤンの更に先を提示した」といわしめた衝撃の長編デビュー作。10年ぶりに帰郷した男を待っていたのは、過去と現在が複雑に錯綜したパラレルワールド。北京郊外で撮影された。
日本の洗練された都会のクリスマスに憧れて北京からやって来たココは、想像していた日本と遠くかけ離れた大阪・新世界でてんやわんやの騒動に巻き込まれていく。笑いを交えて描いた無国籍ドラマ。
マレーシア出身の華僑。1993年に日本に留学、1998年に大阪大学を卒業後、東京の外資系通信会社で6年間勤務した後、北京電影学院の監督コースに入り、2009年に北京で『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』を自主制作し長編デビュー。その後大阪を拠点としながら、世界各地でインディペンデントな作品を撮り続ける一方、2016年にはメジャーな俳優たちが出演した商業映画『愛在深秋』も監督し、中国全土で公開された。
自らを"cinema drifter(映画流れ者)"と呼び、カメラ一つその肩に担いで、地元大阪はもちろん、香港やバルカン半島へと単身赴き、現地の人々と一緒にほぼ即興で演出するというスタイルを基本としている。最新作『あなたの微笑み』はウィーンRed Lotus Asian Film Festivalで唯一日本からの入選作に選ばれた。
世界の片隅にうずもれた、どこにも居場所のない小さな物語をリム・カーワイはそっとすくい上げる。帰れる場所を心に持つ幸運と、それを探し求めて彷徨う人々の諦観がゆるやかに溶け合ってつむぎ出される彼の作品は、誰もが旅の途中なのだと気づかせてくれる。
リム・カーワイ。
この謎に満ちた映画作家は一体何者なのだろう?中華系マレーシア人だという噂だが、日本を始め、世界中を旅しながらその都度仲間を見つけては映画を作り歩いている。一体どうやって食っているのか?どこかにパトロンでもいるのか?
「俺、客家だよ。」
あるとき彼はそう答えて、謎が全て解けたような気がした。“客家"について知りたければ、宮崎学著「血族」があまりに衝撃的だ。本書を携え、全作品上映会へGO!リム・カーワイ來來!
(『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』)音と音楽が示す「いまここ」ではない時間と場所が映画の中の今ここへと流れ込み映画の空間をゆがませる。そこではいくつもの小さな出来事が泡立つように生まれそれらが混ざり合いまた別の時間を作り上げる。
「日陽はしづかに発酵し……」と、かつて観た映画のタイトルが思わず口をつくが、そう思えてしまうのはわれわれもまた彼らの部屋の中の金魚鉢の金魚のように閉ざされた場所で暮らしているからか。ああもっと自由になれる、まだ踏み出せる。そんなことを思わせてくれる映画だった。
『カム・アンド・ゴー』という映画タイトルは、どこかさびしい。リムさんにわけを聞いたら、こんな話をしてくれた。「観光客にとって日本は楽しんで帰る場所。ある意味『中継地』という感じです」。アジアの人が来ては帰る、消費される日本という国。そんな現実を、おもしろやさしく突きつけてくる映画は、これまでほとんどなかった。 映画を携え、リムさんは「たこつぼの外を見てごらん」と、私たちのドアをどんどんたたく。見終えたとき心があたたかいのは、のこされた希望のありかまでおしえてくれるからだ。 マレーシアンでありチャイニーズで大阪人の世界人。 いまの世界には、リムさんみたいな人が必要だとつくづく思う。
貧乏ミニシアターを経営している私は、『トップガン マーヴェリック』や『RRR』といった勇猛果敢な映画がもてはやされる風潮に、(ヒガミまじりに)つい異を唱えたくなる天邪鬼だ。そんな私の映画館に、リム・カーワイは、勇猛果敢とは全く正反対の、私をさらに貧乏にするだろう映画をつくっては「やってくれませんか」と言ってくる。
自主映画のサエない監督がツブレそうな映画館を訪ねて自分の映画を売り込む映画。アジアのあちこちから大阪にやってきたはぐれ者たちがごそごそと蠢く映画。どう見たって入らない映画を「入らないよね」と言って持ってくる。その映画の登場人物たちもまた、うらぶれているくせになぜか明るい。こんな人たちがいる、こんな映画があることに、救いに似たものを感じる。
あてどない旅に出た者たちがミューズを幻視しつづけるリム・カーワイの映画は、「映画館の暗がりに潜り込む」原初の悦びを包含している気がする。
『あなたの微笑み』は、ドラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』のようなモキュメンタリーのような顔をしながら、主演を務めた渡辺紘文の大田原愚豚舎の作品世界にも寄せつつ、アレクサンダー・ロックウェルの『イン・ザ・スープ』やエリア・スレイマンの『天国にちがいない』のような映画史レベルの傑作ともどこかクロスする、リム・カーワイらしい映画愛に満ちた快作なのだ。
リムの映画には「映画という仕事」ではなくて「映画という人生」がある。彼の人生とそこで感じたこと考えたことが作品に結びついている。そういうところが、グッとくる。
(『新世界の夜明け』)
リムくんが映画を撮った。昔からの友達だし、見るしかない。
それはムチャクチャで突っ込みどころ満載の映画だった。
しかし、どこかで真実を突いているような気もした。
そう言えば、昔からリムくんには口癖があったんだった。
「笑うしかないね」
笑うしかないが頷ける。そんな映画。
(『カム・アンド・ゴー』)
梅田も道頓堀もう映らないが、これが大阪だ。
そこに生息する彼女ら、彼らが真の大阪の住人だ。
そして全てを公平にとらえるカメラ・ポジションが素晴らしい。
ひとつとして欠けるものはなく、全員が共通で、粒だっている。
これが映画の力だ。
(『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』)
アジアのパワーと混沌が、ヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客の心を釘付けにする…。
世界映画の理想的なカタチがここにある。
つまり、この作品はエドワード・ヤンがやったさらにその先を提示しようとしているのだ。
彼の名前はリム・カーワイ。
是非とも覚えておかねばなるまい。
リム・カーワイの映画を見れば、人は「こんなふうに映画を作れたら」と思わずにいられない。日本の南北を大胆に縦断しつつ、その土地その場所でここ!というポイントにカメラを置き続ける天性の空間感覚は「シネマドリフター」の面目躍如。
『あなたの微笑み』は格別に芸術的とか、オシャレとか、社会派の映画ではない。だが何だかスッと見ていられるし、ずっと見ていたくなる。動き続けているからだろう。この感覚はリュミエール兄弟の映画を見ているときに一番似ていると思った。ちなみに映画に知人が出てくればホッコリするが、自分の名前が出てくるとギョッとする、ということを知った(渡辺紘文監督とは面識ありません・笑)。
(『どこでもない、ここしかない』)
「今ここ」を自分の生きる場所と見定める主人公の姿は、自分のそのとき居る場所を映画にしてしまう。
シネマドリフター・林家威と重なる。
見れば監督として、人間として尊敬せざるを得ない。
(『いつか、どこかで』)
リム・カーワイの世界ではつねに水が流れている。
横にたゆたう川面や海流は人が繋がる契機を示し、縦に落下する滝は人が断絶する瞬間を示す。
いま、コロナウィルスという滝に打たれている地球で、リム・カーワイは、いつか、どこかで人間が繋がるための静かな水面を写し続けている。
1 | 10:00~11:33 | 新世界の夜明け |
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2 | 12:10~13:53 | 恋するミナミ |
3 | 14:30~17:08 | カム・アンド・ゴー |
17:40~18:10 | トーク:リム・カーワイ×東山彰良 MC:佐々木亮(ライター) |
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4 | 18:30~20:13 | あなたの微笑み |
1 | 10:00~11:30 | どこでもない、ここしかない |
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2 | 12:10~13:31 | いつか、どこかで |
14:10~14:40 | トーク:リム・カーワイ×富田克也 MC:木下竜(利助オフィス) |
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3 | 15:10~16:48 | アフター・オール・ディーズ・イヤーズ |
17:20~17:50 | トーク:リム・カーワイ×樋口泰人 MC:三好剛平(三声舎) |
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4 | 18:30~19:56 | 少年たちの時代革命 |
※開場は各回15分前
「FAMシネマテーク」は福岡市美術館 ミュージアムホールを会場に、これからも貴重なプログラムを提供してまいります。